「揺れから生き残る防災」から、「助かった一人を、その後も見失わない防災」へ。

地震で命を落とすのは、建物が倒れたとき、津波に襲われたとき、火災が発生したときだけではありません。激しい揺れを生き延び、津波から逃れた後にも、人は亡くなっています。避難生活による疲労、持病の悪化、医療や介護の中断、長時間の移動、車中泊、断水、暑さや寒さ、感染症――。こうした発災後のさまざまな負担が関係し、後になって死亡する「災害関連死」です。

今回、阪神・淡路大震災以降の主要な地震について、死者数だけではなく、直接死と災害関連死、死亡した時期、年齢、既往歴、死亡時の生活環境、避難所、ライフライン、気温、医療・介護などのデータを横断して調べてみました。
そこで見えてきたのは、地震による死亡者を減らすためには、「揺れから命を守る」「避難所の環境を改善する」という従来から重要とされてきた対策に加えて、助かった一人ひとりを、発災後も場所や制度の切れ目なく支え続ける仕組みが重要だということです。

これは過去の災害だけの問題ではありません。

2025年12月に公表された首都直下地震の新たな被害想定では、都心南部直下地震で、建物倒壊や火災などによる死者が最悪のケースで約1万8,000人とされています。それとは別に、避難生活などに伴う災害関連死について約1万6,000~4万1,000人という試算も示されました。

つまり、今後の巨大地震では、揺れや火災などによる直接死だけでなく、その後の生活環境や医療・介護の継続によって生じる死亡を、同じ「地震による死亡」の問題として考える必要があります。

  1. まず知っておきたい、災害関連死の数字を比較するときの注意点
  2. 阪神・淡路大震災では「揺れから命を守る」重要性が示された
  3. 新潟県中越地震では、災害関連死が死者の76%を占めた
  4. 熊本地震が示した「災害関連死=避難所で亡くなる人」ではないという事実
  5. 災害関連死は発災直後だけに起きるわけではない
  6. 能登の関連死では70歳以上が94%、既往歴ありが96%だった
  7. 高リスク者を把握する仕組みはすでにある。課題は「つなぐこと」
  8. 「避難所を開設した」という数字だけでは、人の健康は測れない
  9. トイレは「快適性」ではなく命を守る設備である
  10. 暑さ、寒さ、断水、医療・介護の停止は「時間」とともに負担になる
  11. 医療と介護を止めないことも、地震による死亡対策である
  12. 支援物資は「届いたか」から「使えたか」へ
  13. 地震による死亡者を減らすために必要な7つの視点
    1. 1.直接死対策を後退させない
    2. 2.30日・90日を「支援終了日」ではなく健康状態を再評価する節目にする
    3. 3.「場所から人へ」を、実際の現場で機能させる
    4. 4.避難生活の基準は「あるか」ではなく「何日目に達成したか」で測る
    5. 5.平時の医療・福祉データと、発災後の個人支援を役割に応じてつなぐ
    6. 6.物資・医療・介護は「提供した」ではなく「必要な人が利用できた」で評価する
    7. 7.リアルタイムの災害データと、災害関連死の事後検証データをつなぐ
  14. 災害関連死を「後から認定する数字」から「今、命を守る数字」へ
  15. まとめ 「揺れから生き残る防災」から「助かった一人を見失わない防災」へ
  16. よくある質問
  17. 主な出典・参考資料
    1. 主要資料

まず知っておきたい、災害関連死の数字を比較するときの注意点

本稿では複数の災害の数字を比較しますが、災害関連死の統計には注意が必要です。

災害ごとに認定が続く期間が異なり、集計基準日も異なります。また、詳細分析が行われた人数と、その災害で最終的に認定された災害関連死の総数が一致するとは限りません。例えば能登半島地震では、石川県の2026年7月31日時点の死者734人のうち、災害関連死は506人です。一方、本稿で年齢、既往歴、死亡時期、関連要因などを分析する際に使用する石川県の詳細資料は、第37回審査までの449人を対象とした分析です。したがって、「449人」は現在の災害関連死総数ではありません。

熊本地震についても同様で、本稿で死亡時期や死亡時の生活環境を検討する際には、詳細な分析が公表されている218人の分析対象を使用しています。

以下の割合は、こうした母集団や集計時点の違いを踏まえ、「どの災害の方が危険だったか」を単純に順位付けするためではなく、どの時期に、どのような人が、どのような環境でリスクを抱えたのかを考える材料として見ていきます。

阪神・淡路大震災では「揺れから命を守る」重要性が示された

1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は、都市直下型地震の恐ろしさを日本社会に突きつけました。兵庫県が行った10周年調査では、調査対象となった死者6,402人のうち、直接死が5,483人、災害関連死が919人でした。直接死5,483人の死因を見ると、窒息・圧死が3,979人で72.6%を占めています。外傷性ショックが425人、焼死が403人でした。この数字から導かれる対策は明確です。住宅の耐震化、旧耐震住宅への対応、家具の固定、寝室の安全確保、地震火災対策など、強い揺れそのものから生き残るための対策は、今も地震防災の第一線であり続けます。

一方、東日本大震災では状況が大きく異なりました。警察庁が当時、検視等を行った遺体の死因を集計した結果では、溺死が約9割を占めています。巨大津波を伴う地震では、住宅耐震化だけでは命を守れず、迅速な津波避難が決定的に重要になります。
つまり、直接死を防ぐために必要な対策は、地震や地域の特性によって異なります。
ただし、阪神・淡路、中越、東日本、熊本、能登と災害を追っていくと、もう一つ共通する課題が浮かび上がります。

「直接の災害を生き延びた後に亡くなる人」をどう減らすか、という問題です。

新潟県中越地震では、災害関連死が死者の76%を占めた

2004年の新潟県中越地震では、死者68人のうち直接死16人、災害関連死52人と整理されています。
災害関連死は全死者の76.5%です。
中越地震では余震が相次ぎ、住宅に戻ることへの不安などから車中泊が広がりました。そこで大きく知られるようになった問題の一つが、いわゆる「エコノミークラス症候群」、静脈血栓塞栓症です。
長時間同じ姿勢で過ごすこと、運動不足、水分摂取の不足などは静脈血栓塞栓症のリスクになります。避難生活では、トイレに行く回数を減らすために水分を控えるといった行動も起こり得ます。ここで重要なのは、「車中泊は禁止すればよい」という単純な話ではありません。
なぜ車中泊を選んだのか。そこで水分、トイレ、運動、睡眠、健康確認を確保できていたのか。
避難場所そのものではなく、その人が置かれた生活環境全体を見る必要があります。

熊本地震が示した「災害関連死=避難所で亡くなる人」ではないという事実

2016年の熊本地震でも、多数の災害関連死が認定されました。内閣府が公表した218人の詳細分析を見ると、非常に重要な数字があります。
死亡時の生活環境が「避難所」と分類された人は10人、4.6%でした。
一方、震災前と同じ自宅が81人、37.2%。震災前と同じ病院が27人、12.4%、震災前と同じ介護施設が17人、7.8%でした。また、入院後1か月以上経過して亡くなった人は58人、26.6%でした。
ただし、この4.6%という数字は「避難所生活が災害関連死に影響した人が4.6%しかいなかった」という意味ではありません。
避難所で体調を崩し、その後に病院へ移って亡くなった場合などは、死亡時の生活環境として病院側の区分に入ることがあります。したがって、これは「死亡した時点でどこにいたか」を示す数字として読む必要があります。それでも、このデータには大きな意味があります。災害関連死のリスクを抱える人は、避難所の中だけにいるわけではありません。自宅、車中泊、病院、介護施設、親族宅、ホテルや旅館などの二次避難先にもいます。この方向については、国もすでに政策を進めています。内閣府は2024年、在宅避難者や車中泊避難者への支援を含め、「場所(避難所)の支援」から「人(避難者等)の支援」へという考え方の転換を明確にしました。したがって、これからの課題は「避難所以外も支援すべきだ」と新たに提案することではありません。すでに始まっている「人への支援」を、大規模災害の現場でどこまで早く、広く、切れ目なく実装できるか。
ここが次の論点です。

災害関連死は発災直後だけに起きるわけではない

災害関連死の死亡時期を見ると、さらに重要な特徴が見えてきます。

災害1か月以内3か月以内
東日本大震災1,219人/3,810人(32.0%)1,905人/3,810人(50.0%)
熊本地震(218人分析)124人/218人(56.9%)177人/218人(81.2%)
能登半島地震(449人分析)147人/449人(32.7%)286人/449人(63.7%)

東日本大震災では、災害関連死3,810人のうち、1週間以内に472人、1週間を超えて1か月以内に747人、1か月を超えて3か月以内に686人が亡くなっています。1か月以内では1,219人、32.0%。3か月以内では1,905人、50.0%です。

熊本地震の218人分析では、1週間以内53人、1週間を超えて1か月以内71人、1か月を超えて3か月以内53人でした。1か月以内で56.9%、3か月以内で81.2%に達します。

能登半島地震の449人分析では、2024年1月1~8日に44人、1月9~31日に103人、2月に78人、3月に61人が亡くなっています。1月中で32.7%、3月末までで63.7%です。

災害ごとに母集団や背景が異なるため、この比率だけで比較することはできません。特に東日本大震災の災害関連死には、原子力発電所事故に伴う長期・広域避難の影響が大きい福島県の事例が多数含まれます。それでも、この数字から一つのことは明確に言えます。
死亡を防ぐための時間軸は、発災から数日では終わらないということです。
救助・救命では「72時間」が重要な時間として知られています。しかし、災害関連死まで含めて地震による死亡者を減らそうとするなら、その後の数週間、数か月も死亡予防の対象にしなければなりません。
本稿では、過去災害の死亡時期を踏まえ、発災後30日程度を「第二の救命期」、30日と90日を高リスク者の状態を重点的に再評価する節目として考えることを提案します。これは法律や国の正式な期間区分ではなく、本稿での問題提起です。また、90日を過ぎれば支援を縮小してよいという意味でもありません。東日本大震災では、災害関連死の半数が3か月より後に発生しています。30日、90日という節目を設ける意味は、支援を終えるためではなく、長期化する避難の中で「見失っている人はいないか」「治療や介護が途切れていないか」「生活環境の負担が蓄積していないか」を改めて確認することにあります。

能登の関連死では70歳以上が94%、既往歴ありが96%だった

では、発災後の数週間、数か月の間に、誰を重点的に支援する必要があるのでしょうか。

能登半島地震の災害関連死449人の分析では、70歳以上が424人で94.4%、80歳以上だけでも368人で82.0%でした。さらに、既往歴があった人は430人で、95.8%に達しています。非常に高い数字ですが、ここには重要な注意点があります。
能登半島地震の被災地、とりわけ奥能登は、もともと人口減少と高齢化が進んできた地域です。輪島市、珠洲市、穴水町、能登町からなる石川県の「能登北部圏域」では、2020年の総人口61,114人に対し、65歳以上が29,782人で約48.7%を占めていました。75歳以上は16,643人で、総人口の27.2%です。つまり、「災害関連死の94.4%が70歳以上だった」という数字には、そもそも被災地域に高齢者が非常に多いという人口構成の影響も含まれています。
死亡者に占める高齢者の割合だけを見て、「高齢であること自体が94.4%という死亡リスクを生んだ」と解釈することはできません。本来、高齢者のリスクをより厳密に評価するには、被災地域の年齢別人口を分母として、「70歳以上1万人当たりの災害関連死」と「70歳未満1万人当たりの災害関連死」のように比較する必要があります。
一方で、人口構成だけで能登の災害関連死を説明できるわけでもありません。
449人の分析で95.8%に既往歴があったことに加え、災害関連死につながったと考えられる要因として、次の項目が多数挙げられています。

  • 地震のショックや余震への恐怖など:395人(88.0%)
  • ライフライン途絶による負担:233人(51.9%)
  • 社会福祉施設の被災による介護機能の低下など:209人(46.5%)
  • 避難所等での生活による負担:176人(39.2%)
  • 移送、道路事情、長時間移動、複数回の移動など:83人(18.5%)

これらは複数選択のため、割合を合計すると100%を超えます。
むしろ重要なのは、その点です。
災害関連死を、一つの原因だけで説明することは難しい。
高齢や既往歴といった個人側の要因に、ライフライン途絶、介護機能の低下、避難生活、長時間の移送など、発災後に生じるさまざまな負担が重なる。能登のデータからは、そうした複合的な構造の中で災害関連死を考える必要性が見えてきます。実際、449人の死因を見ると、循環器系疾患が136人で30.3%、呼吸器系疾患が126人で28.1%、老衰が88人で19.6%でした。

東日本大震災でも、災害関連死3,810人のうち66歳以上は3,371人で88.5%を占めています。初期の1,263人を対象とした分析でも、「既往症あり」と整理された人は814人、64.4%でした。ただし、この分析では既往症が不明の人も含まれるため、単純な比較には注意が必要です。

重要なのは、「高齢者だから亡くなった」と結論づけることではありません。

その地域の人口構成と、一人ひとりの健康・医療・介護上の脆弱性を平時から把握し、災害による環境変化が重なったときに優先して支援できるようにすることです。

高リスク者を把握する仕組みはすでにある。課題は「つなぐこと」

ここで、「高齢者や持病のある人を平時から把握しよう」とだけ提案すると、現在の国や自治体の取り組みを無視することになります。実際には、そのための制度やデータ基盤はすでにかなり整備され始めていることが今回調べてみて理解できました。

平時の医療・健康政策では、NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)を使った都道府県別、二次医療圏別などの集計が公表されています。KDB(国保データベース)では、国保・後期高齢者の健診、医療、介護のデータを組み合わせ、地域の健康課題の把握や保健事業の対象者抽出などに活用されています。
ただし、NDBやKDBは「災害が起きたら行政がそこから個人の持病を検索して支援する」という仕組みではありません。また、KDBは国保・後期高齢者を中心とするため、地域の全住民を一つのデータで網羅するものでもありません。
災害時に自力で避難することが難しい人を把握する制度としては、「避難行動要支援者名簿」と「個別避難計画」があります。2026年4月1日時点で、避難行動要支援者名簿は全国1,741市町村すべてで作成されています。前年まで残っていた「個別避難計画を1件も作成していない自治体」も解消されました。
一方、名簿掲載者6,696,718人に対し、調査基準日時点で個別避難計画が作成されていた人は1,014,017人で、名簿掲載者全体を分母にすると15.1%です。市町村の52.3%では作成率が20%以下でした。
ただし、国は全員について一律に同じ速度で作るのではなく、優先度が高い人から計画作成を進める方針を示しています。したがって15.1%という数字だけで「85%が放置されている」と評価するのは適切ではありません。それでも、自治体間の進捗差が大きく、実効性のある計画をどこまで広げられるかは今後も課題です。

発災後に個々の被災者の医療を途切れさせない仕組みもあります。
オンライン資格確認等システムの「災害時医療情報閲覧機能」では、災害時モードが利用可能になった被災地域の医療機関・薬局で、患者がマイナンバーカードを持参していなくても、氏名、生年月日、性別、住所などから本人を確認し、原則として本人の同意の下で薬剤情報、診療情報、特定健診情報などを確認できます。
デジタル庁も、マイナンバーカード等を活用した避難者受付のデジタル化や、避難時に診療・薬剤情報等を医療につなげる取り組みを進めています。さらに、避難所等の環境や保健・医療・福祉情報を災害中に集約する仕組みとして、厚生労働省のD24H(災害時保健医療福祉活動支援システム)があります。能登半島地震では、避難所のトイレ、ライフライン、衛生環境などを統一様式で入力し、関係者間でリアルタイムに共有する運用が行われました。

つまり、必要な「部品」はすでにかなり存在しています。

これから問われるのは、制度をもう一つ増やすことよりも、これらを一人の被災者を中心にどうつなぐかではないでしょうか。平時には、その地域の人口構成、疾病傾向、介護需要、支援が必要な人を把握する。発災後には、避難所だけでなく在宅、車中泊、病院、介護施設、二次避難先まで含めて、その人が「今どこにいるのか」を把握する。医療現場では必要に応じて薬剤情報や診療情報を確認し、治療を途切れさせない。そして、その情報を発災直後だけで終わらせず、30日、90日、その先へと更新していく。

「場所が変わっても、同じ一人を見失わない」ことが、今後の災害関連死対策の重要な視点だと考えます。

なお、医療情報や要介護情報などは極めて機微性の高い個人情報です。情報を連携すればよいという話ではなく、利用目的、本人同意、閲覧権限、情報セキュリティを明確にしたうえで運用することが大前提です。

「避難所を開設した」という数字だけでは、人の健康は測れない

「場所から人へ」という政策転換が進んでも、避難所の環境改善が重要でなくなるわけではありません。

能登半島地震の珠洲市・宝立小中学校では、発災直後に最大800~900人が避難しました。
内閣府の避難所運営実態調査に記載された想定避難者数287人を基準に単純計算すると、最大時には想定の約2.8~3.1倍です。なお、過去の別の計画資料には異なる収容人数も記載されており、「287人」は内閣府の当該実態調査で用いられた想定人数を基準とした比較です。この一事例を能登全体に一般化することはできませんが、「避難所を何か所開設したか」「何人入ったか」だけでは、避難生活の安全性を評価できないことは分かります。

  • 一人当たりどれだけの居住スペースを確保できているか
  • 使用可能なトイレは何基あり、1基を何人で使っているか
  • 床で寝ている人はどれだけいるか
  • 簡易ベッドを必要とする人に届いているか
  • 水、電気、冷暖房は使えるか
  • 医療・保健・福祉職の巡回は行われているか
  • 女性、高齢者、障害のある人などが安全にトイレや生活設備を利用できるか

こうした指標についても、「これから新しく基準を作るべきだ」という段階ではありません。
内閣府の現行指針では、居住スペースについて一人当たり最低3.5平方メートルを目安とし、簡易ベッドやパーティションの早期導入を重視しています。災害用トイレについても、発災当初は50人に1基、その後は20人に1基を目安とする考え方が示されています。

したがって、今後の検証でより重要になるのは、「基準があるか」ではなく、「その基準を発災後いつ達成できたか」です。発災24時間後、72時間後、1週間後に、どれだけの避難所が必要な生活環境を確保できていたのか。数量だけでなく、清潔さ、安全性、利用しやすさを含めて測る。

避難所の評価を「開設実績」から「健康を維持できる環境を何日目に実現できたか」へ進める必要があります。

トイレは「快適性」ではなく命を守る設備である

避難生活で最初に思い浮かぶ支援物資は、食料や水、毛布かもしれません。しかし、過去の災害を見ると、トイレの問題は健康行動そのものを変えてしまいます。

阪神・淡路大震災では断水によって水洗トイレが使えなくなり、神戸市の全避難所に仮設トイレが行き渡るまで約2週間を要しました。当初の設置目標は150人に1基、その後100人に1基、75人に1基へと改善されていきました。さらに重要なのは、トイレに行きたくないため、食事や水分の摂取を控える避難者がいたことです。トイレが使いにくいことで水分を控える。脱水や活動量低下が起こる。持病のある人や高齢者では、それが体調悪化の一因となり得る。

中越地震や熊本地震で問題となった車中泊と静脈血栓塞栓症も、水分不足や長時間同じ姿勢でいることなどとの関係を考える必要があります。

熊本地震では、車中避難者に対する血栓症予防の啓発や、専門チームによる対策、スクリーニングも実施されました。

トイレ、水、運動、睡眠環境は、「生活の質」を少し良くするためだけのものではありません。健康悪化を防ぐための基礎的な防災インフラです。

暑さ、寒さ、断水、医療・介護の停止は「時間」とともに負担になる

災害関連死を考えるうえでは、「何が不足していたか」だけでなく、その状態が何日続いたかを見る必要があります。

東日本大震災が発生した2011年3月11日の仙台では、日平均気温1.5℃、最低気温マイナス2.5℃でした。その後も氷点下の日があり、3月18日の最低気温はマイナス4.1℃でした。

能登半島地震後の輪島でも、2024年1月24日は日平均0.9℃、最低マイナス0.7℃でした。

もちろん、これらの気温から「気温が何人を死亡させた」と因果関係を算出することはできません。しかし、高齢者や持病のある人が、暖房、水、トイレ、ベッド、医療・介護などを十分に利用できない環境に長く置かれれば、身体的な負担が蓄積する可能性があります。そして当然気温に関しては寒さだけではなく、酷暑下の熱中症も全く同じこととなります。

宝立小中学校の内閣府調査では、電気の復旧が1月8日、通信が1月13日、上下水道が4月15日と記録されています。一方で、1月3日には給水支援、1月6日には医師・看護師の常駐、1月9日には入浴支援が始まるなど、水道そのものの復旧前にもさまざまな代替支援が行われました。

ここで区別したいのは、「給水支援が始まった日」と「水道が復旧した日」は同じではないということです。同様に、「物資が地域に届いた日」と「必要な人が使えた日」、「医療チームが入った日」と「必要な患者が治療を再開できた日」も同じではありません。災害対応を評価するときには、こうした生活機能が実際に利用可能になった時点まで見ていく必要があります。

医療と介護を止めないことも、地震による死亡対策である

災害時の医療というと、倒壊建物から救出された負傷者の治療をイメージしがちです。もちろん、それは最優先の救命活動です。一方、災害関連死のデータを見ると、もう一つ重要な役割があります。

災害前から治療や介護を受けていた人の状態を悪化させないことです。

東日本大震災の初期分析では、病院の機能停止などによる初期治療の遅れが関連要因の一つとして挙げられています。

能登の449人分析でも、社会福祉施設の被災による介護機能低下等が209人、医療施設の被災や機能停止、治療遅延等が36人、交通・搬送事情による治療遅延等が12人で関連要因として挙げられています。

  • 常用薬を入手できない
  • 透析を継続できない
  • 在宅酸素を使えない
  • インスリンなどの治療を継続できない
  • 介護職員や介護サービスが不足する
  • 道路の寸断などで医療機関への搬送が遅れる

こうした問題は、発災した瞬間ではなく、数日、数週間をかけて健康状態に影響する可能性があります。だからこそ、「病院が開いているか」だけでなく、治療や介護が必要な一人ひとりについて、必要なサービスが何日中断したのかまで把握することが重要です。

支援物資は「届いたか」から「使えたか」へ

熊本地震では、東日本大震災の教訓を踏まえ、国によるプッシュ型の物資支援が行われました。内閣府の振り返りでは、量としては比較的早い段階で物資が確保された一方、受け入れ、仕分け、道路事情、避難所への配送などに課題が生じたことが整理されています。
この教訓を踏まえ、国の物資支援の仕組みも更新されています。2025年4月からは、新物資システム「B-PLo」の運用が始まり、国、自治体、民間事業者の間で調達・輸送情報を共有する取り組みが進んでいます。したがって、これから「物資の輸送をデジタルで管理すべきだ」と提案するだけでは、すでに進んでいる政策の繰り返しになり、次に見るべきなのは、その一歩先です。

集積拠点に到着したかではなく、必要な被災者が必要な量を実際に利用できたか。

水、食料、トイレ、毛布、簡易ベッド、燃料、薬、酸素、衛生用品などについて、「輸送完了」だけでなく「利用可能」までを評価する必要があります。

地震による死亡者を減らすために必要な7つの視点

1.直接死対策を後退させない

災害関連死に注目するからといって、住宅耐震化、家具固定、地震火災対策、津波避難などの重要性が下がるわけではありません。

阪神・淡路大震災の窒息・圧死、東日本大震災の津波被害が示したように、まず発災そのものから生き残ることが出発点です。

2.30日・90日を「支援終了日」ではなく健康状態を再評価する節目にする

災害関連死は発災後数日で終わりません。発災後30日程度を本稿でいう「第二の救命期」と捉え、30日、90日という節目で、高リスク者の健康、服薬、医療・介護、避難環境を重点的に再確認する。90日以降も必要な支援は継続する。短期の救助と長期の健康支援を、一つの死亡予防政策としてつなぐことが必要です。

3.「場所から人へ」を、実際の現場で機能させる

「避難所ではなく人を見る」という方向は、すでに国の政策になっています。次の課題は、在宅、車中泊、病院、介護施設、親族宅、二次避難先などへ移動しても、支援が途切れないことです。
場所が変わっても、同じ一人を見失わない。
この継続性を、制度の実装目標として明確にする必要があります。

4.避難生活の基準は「あるか」ではなく「何日目に達成したか」で測る

一人当たりの空間、トイレ、簡易ベッド、パーティション、入浴、冷暖房などについて、国の指針はすでに整備されています。今後は、各避難所について、24時間後、72時間後、1週間後にどの水準まで到達したのかを記録し、改善に要した時間そのものを評価する必要があります。

5.平時の医療・福祉データと、発災後の個人支援を役割に応じてつなぐ

NDB、KDB、避難行動要支援者名簿、個別避難計画、オンライン資格確認、災害ケースマネジメントなど、すでに複数の仕組みがあります。それぞれの制度の目的と個人情報保護を守りながら、地域のリスクを知る情報と、目の前の一人に必要な支援を判断する情報を適切につなぐことが重要です。

6.物資・医療・介護は「提供した」ではなく「必要な人が利用できた」で評価する

物資配送、医療チーム派遣、介護支援などは、実施件数だけでは十分ではありません。必要な被災者が水を飲めたのか、ベッドを使えたのか、薬を受け取れたのか、透析を再開できたのか。行政側のアウトプットではなく、被災者側の利用可能性を成果指標にすることが重要です。

7.リアルタイムの災害データと、災害関連死の事後検証データをつなぐ

災害中の情報収集については、D24Hなどの仕組みがすでにあります。一方、今回の調査では、過去の災害について、災害関連死者一人ひとりの実際の死亡日、避難先の移動回数、各場所での滞在期間、医療・介護の中断日数、避難所の実測環境などを、全国共通の形式で追うことはできませんでした。ここに、なお大きなデータギャップがあります。今後は、匿名化や個人情報保護を前提に、「どのような環境に何日置かれ、どのような支援をいつ受け、その後健康状態がどう変化したのか」を検証できる形で記録を残す必要があります。

災害関連死を「後から認定する数字」から「今、命を守る数字」へ

今回の調査を通じて感じたのは、日本にデータがないわけではない、ということです。避難所の環境を把握する仕組みがある。医療情報を確認する仕組みがある。支援が必要な人を平時から把握する制度がある。物資を管理するシステムがある。災害ケースマネジメントも進められています。しかし、それぞれの制度が存在することと、災害の最中に一人の被災者に対して切れ目なく機能することは別の問題です。例えば、避難所にいた高齢者が親族宅へ移り、その後二次避難し、体調を崩して病院へ入り、さらに介護施設へ移ったとします。その人にとって災害は一続きです。しかし行政や支援制度から見ると、避難所、在宅支援、医療、介護、二次避難と、担当やデータが分かれる可能性があります。

災害関連死を減らすためには、制度ではなく「人」を軸に時間をつなぐ必要があります。

そして、そのためにデータを使う。
「この地域では高リスク者の健康悪化が増えている」
「この避難所ではトイレ1基当たりの利用者が急増している」
「この地区では在宅酸素を必要とする人への支援が途切れている」
「二次避難した要介護者の中に、必要なサービスを再開できていない人がいる」
こうした兆候を早く見つけ、発災中に人員や物資、医療・福祉支援を投入する。災害関連死のデータを、「亡くなった後に原因を検証するための数字」から、「次の一人を亡くさないために使う数字」へ変えていく。ここが、今後の地震による死亡対策で重要になると考えます。

まとめ 「揺れから生き残る防災」から「助かった一人を見失わない防災」へ

阪神・淡路大震災は、住宅倒壊による窒息・圧死を減らすことの重要性を示しました。東日本大震災は、巨大津波から一刻も早く避難することの重要性を示しました。

その一方、新潟県中越地震では死者68人のうち52人が災害関連死となり、熊本地震の218人分析では、死亡時に避難所にいた人は4.6%でした。能登半島地震の449人分析では、70歳以上が94.4%、既往歴ありが95.8%で、ライフライン途絶、介護機能の低下、避難生活、移送など複数の負担が関連要因として挙げられています。

ただし、能登はもともと高齢化率の高い地域です。したがって「関連死の94%が高齢者だった」という構成比だけをもって、高齢そのもののリスクを断定することはできません。重要なのは、その地域に誰が暮らしているのか、どのような医療・介護需要があるのかを平時から知り、発災後の環境変化によって状態を悪化させる可能性の高い人を早く見つけることです。

そして、ここまでの取り組みはゼロから始める必要はありません。

国や自治体ではすでに、「場所から人へ」という被災者支援への転換、避難行動要支援者名簿、個別避難計画、災害ケースマネジメント、D24H、オンライン資格確認の災害時医療情報閲覧、防災DX、B-PLoなど、多くの制度や仕組みが整備・運用・実証されています。次の課題は、それらを「一人の被災者」を中心につなぐことです。避難所から車中泊へ移っても、自宅へ戻っても、二次避難しても、病院へ入っても、介護施設へ移っても、その人が必要としている医療、介護、薬、生活支援を途切れさせない。
トイレやベッドの基準を作るだけで終わらず、何日目に必要な水準へ到達したのかを見る。物資が届いたことだけで終わらず、必要な人が実際に使えたかを見る。30日、90日を支援の終了日ではなく、高リスク者を見失っていないか再確認する節目にする。

「地震による死亡者を減らす」という目標は、揺れが収まった瞬間で終わるものではありません。

直接死を防ぐための防災をさらに進めると同時に、助かった命を、その後の避難生活や生活再建の過程で失わせない仕組みをつくる。

「揺れから生き残る防災」から、「助かった一人を、その後も見失わない防災」へ。

過去30年の災害関連死の数字が問いかけているのは、新しい制度を一から増やすことだけではなく、すでにある制度、医療、福祉、物資、データを、人を中心に、時間軸でつなぐことではないでしょうか。

よくある質問

Q
災害関連死とは何ですか?
A

災害による負傷の悪化や、避難生活などの身体的・精神的負担による疾病などで死亡し、災害弔慰金制度等に基づいて災害が原因と認められた死亡を指します。

発災当日に亡くなるとは限らず、数週間、数か月後に亡くなるケースもあります。また、実際の死亡日と、災害関連死として認定された日、公表された日は異なります。

Q
なぜ発災後30日、90日が重要なのですか?
A

これは公的な制度区分ではなく、本稿で過去災害のデータから提案している考え方です。災害関連死のうち3か月以内に亡くなった割合は、東日本大震災で50.0%、熊本地震の218人分析で81.2%、能登半島地震の449人分析で63.7%でした。このため、救助期を過ぎても数か月にわたって死亡予防策を続ける必要があると考えられます。

Q
避難所を改善すれば災害関連死は減らせますか?
A

避難所環境の改善は重要ですが、それだけでは十分ではありません。熊本地震の関連死218人分析では、避難所で死亡した人は10人、4.6%でした。自宅や病院、介護施設などで亡くなった人も多く、在宅避難者や車中泊者を含めた地域全体の健康支援が必要です。

Q
個人でできる災害関連死対策はありますか?
A

持病がある場合は、常用薬、お薬手帳、治療内容、医療機関の連絡先などを平時から整理しておくことが重要です。また、水や食料だけでなく、携帯トイレ、寒暖対策、照明、モバイル電源などを準備しておくことも、避難生活による身体的負担を減らすことにつながります。特に高齢者や要介護者がいる家庭では、「どこへ避難するか」だけではなく、避難後も医療や介護をどう継続するかまで事前に考えておくことが重要です。

主な出典・参考資料

情報確認日:2026年9月20日。主要な一次資料は、確認先をたどれるよう公式ページへのリンクを付しています。

主要資料

  • 内閣府「首都直下地震対策検討ワーキンググループ報告書・被害想定」関連ページ(2025年12月取りまとめ)
  • 兵庫県「阪神・淡路大震災の死者にかかる調査について」
  • 内閣府「阪神・淡路大震災教訓情報資料集」
  • 新潟県「新潟県地域防災計画」ほか新潟県中越地震関連資料
  • 警察庁「東日本大震災における死因等に関する資料」
  • 復興庁「東日本大震災における震災関連死の死者数」
  • 復興庁「東日本大震災における震災関連死に関する報告」
  • 内閣府「被災者支援のあり方検討会」熊本地震災害関連死分析資料
  • 内閣府資料「能登半島地震 災害関連死 内訳(対象:449人)」(出典:石川県「令和6年能登半島地震における災害関連死の概況」第37回審査会まで)
  • 石川県「令和6年能登半島地震による人的・建物被害の状況」
  • 石川県「石川県長寿社会プラン2024」
  • 内閣府「令和6年能登半島地震に係る避難所運営の実態調査」
  • 気象庁「過去の気象データ検索」
  • 内閣府「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」
  • 内閣府「避難所の生活環境対策」(「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」等を掲載)
  • 内閣府「在宅・車中泊避難者等の支援の手引き」
  • 内閣府「避難生活の環境変化に対応した支援の実施に関する検討会 とりまとめ」
  • 総務省消防庁「避難行動要支援者の避難支援対策の調査結果」(令和8年4月1日現在の名簿・個別避難計画調査を掲載)
  • 厚生労働省「D24H(災害時保健医療福祉活動支援システム)」関連資料
  • 厚生労働省「オンライン資格確認等システム 災害時医療情報閲覧機能」関連資料
  • 厚生労働省「NDBオープンデータ」
  • 厚生労働省「国保データベース(KDB)システム」関連資料
  • デジタル庁「非常時におけるマイナンバーカードの利用シーン」ほか防災DX関連資料
  • 内閣府「新物資システム(B-PLo)」関連資料
  • 災害対策基本法
  • 日本防災士機構「防災士教本 」
防災コラム

小林 裕(こばやし ゆたか)
保有資格:防災士(登録番号:第318434号)
認証機関:特定非営利活動法人 日本防災士機構

元日という特別な日。
幸せな日常や時間が一変し、理不尽に日常や大切な家族・知人を奪われた能登半島地震。
あまりのショックとその現実を前にして、「自分に何ができるのか」を深く自問自答した末に防災士の資格を取得し、防災・減災活動をスタートさせました。

また、本職であるマーケティングの分野で培った「情報を分かりやすく、正確に必要としている方へ届ける」という専門知見を活かし、一人でも多くの方に確かな防災情報を届けたいという想いから、当サイトの企画・運営に至っております。

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