- 強い揺れや弱くても長い揺れを感じたら、津波警報・注意報や家族からの連絡を待たず避難を開始する。
- 家族が別の場所にいる場合は、迎えや安否確認のため危険な区域へ戻らず、その場所から各自で安全な高い場所へ避難する。
- 周囲がまだ逃げていなくても自分から率先して避難し、避難場所に着いた後も状況を確認して必要ならさらに安全な場所へ移動する。
- 津波警報・注意報が解除されるまで避難を続け、家族の確認や再会はその後に行う。
- 平時から家族それぞれの避難先と、津波時は危険区域へ迎えに戻らず各自で避難する約束を確認し、子どもの施設の避難・引き渡し方法も確認する。
大きな地震が発生し、津波の危険があるとき、家族が別々の場所にいたらどうしますか。
「子どもを迎えに行かなければ」「家族と連絡が取れてから逃げよう」「自宅へ戻って家族を探そう」
大切な人を思えば、そう考えるのは自然なことです。
しかし、津波避難では、その行動が自分自身の避難を遅らせ、家族全員が危険にさらされる可能性があります。そこで三陸地方に伝えられてきたのが、「津波てんでんこ」という教えです。
「てんでんこ」とは、「各自」「それぞれ」という意味です。津波の危険が迫ったときには、家族が一緒にいなくても互いを探しに戻らず、それぞれが自分の判断で一刻も早く安全な高い場所へ避難する。この考え方が「津波てんでんこ」です。
重要なのは、災害が起きてから家族を置いて逃げるかどうかを考えることではありません。平時から「津波が来たら、それぞれが必ず逃げる」と家族で約束しておくことです。

この記事では、「津波てんでんこ」の意味と、なぜ家族を待たずに各自で避難する必要があるのか、そして実際にその行動を取るために平時から何を決めておくべきかを解説します。
津波てんでんことは?「各自がすぐ逃げる」という津波避難の教え
「津波てんでんこ」は、津波の危険が迫ったとき、それぞれが自分の命を守るため、家族が離れた場所にいても迎えや安否確認のために危険な場所へ戻らず、各自が速やかに高台など安全な場所へ避難するという考え方です。重要なのは、家族や支援が必要な人を置き去りにすることではなく、平時から家族や地域で避難方法や支援方法を決めておくことです。
津波は、地震が発生した後の限られた時間の中で避難しなければならない災害です。そのため、避難を始める前に家族を探したり、迎えに行ったり、電話がつながるまで待ったりすると、その分だけ安全な場所へ移動する時間を失います。
「津波てんでんこ」が伝えている核心は、誰かが迎えに来ることを待つのではなく、自分自身で避難を開始することです。
津波のとき家族を探しに戻ることが危険な理由
家族が別々の場所にいるとき、地震が起きれば安否が気になるのは当然です。
しかし、津波の危険がある地域では、家族を探すために移動することが避難の遅れにつながります。例えば、子どもが学校にいると考えて学校まで迎えに行く、自宅に家族がいるか確認するために戻る、離れた家族からの電話を待つといった行動です。その間にも津波は沿岸へ迫ります。
また、大規模地震の直後には電話や通信がつながりにくくなることもあります。「連絡が取れたら避難する」という行動ルールでは、通信できないこと自体が避難開始を遅らせる原因になりかねません。
津波の危険があるときに優先すべきなのは、家族が別の場所にいる場合は、安否確認や迎えのために危険な区域へ戻ることより、まず自分が安全な場所へ避難することです。
家族が別々の場所にいるときこそ「津波てんでんこ」で逃げる
地震は、家族全員が自宅にそろっているときに起きるとは限りません。
子どもは学校、保護者は職場、別の家族は買い物や外出先というように、それぞれが違う場所にいる時間のほうが長い家庭もあります。その状況で津波の危険が生じた場合、それぞれが「家族がどうしているか」を確認してから行動しようとすると、全員の避難開始が遅れる可能性があります。
だからこそ平時から、「津波の危険があったら、家族を探しに行かず、その場所から自分で安全な場所へ逃げる」と決めておくことが重要です。

家族がお互いに「それぞれの場所から避難する」という約束を共有しておけば、発災時に安否確認のため危険な場所へ戻ろうとする行動を減らすことにつながります。
家族が一緒にいる場合には声を掛け合って避難できます。しかし別々にいる場合には、それぞれの場所から各自が避難する。この切り替えを事前に共有しておくことが大切です。
津波避難では「率先避難者」になることが周囲の避難にもつながる
津波避難では、自分で判断して最初に動き出すことも重要です。
釜石市の津波防災教育では、「想定にとらわれない」「状況下において最善をつくす」「率先避難者になる」という避難の3原則が重視されてきました。
「率先避難者たれ」とは、周囲の人が動き始めるのを待つのではなく、自分から避難を始めるという考え方です。災害時には、「ほかの人が逃げていないから大丈夫なのではないか」と周囲の行動を見て判断してしまうことがあります。
しかし、誰も動かなければ全員の避難開始が遅れてしまいます。
一人が「逃げよう」と行動を起こすことで、その姿を見た家族や友人、近所の人が避難を始めるきっかけになることがあります。
つまり「津波てんでんこ」は、自分だけが助かればよいという考え方ではありません。
自ら率先して避難しながら周囲にも避難を呼びかけることが、ほかの人の避難開始のきっかけになることがあります。
東日本大震災で示された「自分で判断して逃げる」ことの重要性
東日本大震災では、日頃から津波防災教育を続けていた地域で、子どもたちが自ら判断して避難した事例が、先ほど紹介した釜石市となります。釜石市では、学校で【津波避難の3原則】「想定を信じるな」「最善を尽くせ」「率先避難者たれ」を繰り返し学び、訓練してきました。この事例は広く「釜石の奇跡」と呼ばれましたが、実際には日頃の防災教育と避難訓練、自ら判断して行動する力が生かされた結果として捉えることが重要です。
「釜石の奇跡」
東日本大震災では、岩手県釜石市の小中学生が日頃の防災教育を生かして避難し、多くの命が守られました。特に知られているのが、海岸に近い釜石東中学校と鵜住居小学校の避難です。地震発生後、中学生たちは高台への避難を開始しました。鵜住居小学校でも、中学生が避難する姿などを受けて校外への避難を開始し、児童と生徒は一緒に高台を目指しました。重要なのは、最初の避難場所に着いたところで「ここなら安全」と判断しなかったことです。周囲の状況からさらに危険が迫っていると判断すると、より高い場所へと避難を続けました。その結果、当時学校にいた釜石東中学校と鵜住居小学校の児童・生徒は津波から逃れることができました。
この事例が示しているのは、単に「避難場所を覚えていた」ことだけではありません。
災害時に自分で危険を判断し、自分から避難を開始する行動が身についていたことが重要です。
「指定された避難場所に着けば終わり」と思わない
津波てんでんこの考え方には、「自分で判断する」という重要な要素があります。津波の規模や浸水範囲は、事前の想定どおりになるとは限りません。避難先に到着した後も周囲の状況を確認し、さらに高い安全な場所へ移動できる場合は、より安全な場所への避難を続ける判断も必要です。
内閣府も、東日本大震災の教訓として、あらかじめ決められた避難経路や避難場所だけで安心せず、周囲の状況を見ながらより安全な場所へ避難できないかを判断することの重要性を示しています。
「ここまで逃げれば絶対に安全」と思い込むのではなく、その時点で自分にできる最善の避難行動を続けることが重要です。
津波てんでんこを実践するには家族で避難先を決めておく
家族を待たずに各自で逃げるためには、平時からの約束が欠かせません。何も決めていなければ、地震が起きた瞬間に「家族は大丈夫だろうか」「どこへ行けば会えるだろう」と不安になり、迎えに戻りたくなります。
そこで、津波の危険がある地域では、家族それぞれが普段過ごしている場所からどこへ逃げるのかを確認しておきます。自宅にいるとき、学校にいるとき、職場にいるとき、よく利用する施設や海岸付近にいるときなど、状況ごとの避難先を考えておきます。そして家族で、「津波の危険がある地震が起きたら、危険な区域へ迎えに戻らず、それぞれの場所から避難する」と約束しておきます。

避難後の再会方法についても、津波の危険がなくなってから確認するという考え方を共有しておけば、発災直後に無理に家族を探す必要がなくなります。
学校・保育施設等にいる子どもについては、津波時の引き渡しや避難方法を施設ごとに平時から確認しておきましょう。津波の危険が迫っている状況で、保護者が危険区域へ迎えに向かうことを前提にしないことが重要です。
学校や地域で「津波てんでんこ」を訓練しておく意味
津波避難は、知識として理解しているだけでは、実際の災害時に行動できないことがあります。強い揺れや緊急地震速報に驚いた状況で、周囲の人が誰も避難していなければ、自分だけ走り出すことには心理的なためらいが生じる場合があります。だからこそ、釜石市の事例のように学校や地域で繰り返し避難訓練を行い、「地震が起きたら自分で判断して逃げる」という行動を身につけておくことが重要なのだと考えます。
これも内閣府からですが、東日本大震災の教訓として、住民の生命を守るためには迅速な避難を確実に行えるよう、防災教育と避難訓練を組み合わせた対策が必要だとされています。
避難訓練では、単に決められた場所まで全員で歩くだけではなく、「家族がそばにいなかったらどうするか」「いつもの避難場所が危険だったらどうするか」といった状況も考えておくことが実際の判断力につながります。
津波てんでんこは「家族を見捨てる」という意味ではない
「家族を待たずに逃げる」と聞くと、冷たい行動のように感じるかもしれません。しかし、「津波てんでんこ」は、自分だけが助かればよいという教えではありません。平時から家族や地域で避難方法を話し合い、災害時には互いが避難していることを信じて、それぞれが速やかに命を守る行動を取るという考え方です。
家族を探しに戻った人と、迎えを待っていた人の双方が逃げ遅れてしまえば、結果として家族全員が危険にさらされます。反対に、一人ひとりが「自分の場所から必ず逃げる」という約束を守れば、互いを探すために危険な場所へ戻る必要がありません。
そのためには、災害発生時だけ「てんでんこ」で行動しようとしても十分ではありません。

平時には家族や地域で避難先を確認し、訓練し、災害が起きたら互いを信じて各自が逃げる。そこまで含めて考えることが重要です。
津波で覚えておきたい行動の順番
- 強い揺れや、弱くても長い揺れを感じたら津波の危険を考える
- 強い揺れや弱くても長い揺れを感じた場合は、津波警報・注意報の発表や家族からの連絡を待たず避難を開始する
- 家族が別の場所にいる場合は、迎えに行ったり探しに戻ったりしない
- その場所から、できるだけ高い安全な場所へ避難する
- 周囲がまだ逃げていなくても、自分から率先して避難する
- 避難場所に着いても状況を確認し、必要ならさらに安全な場所へ移動する
- 津波警報・注意報が解除されるまで避難を続け、家族の確認や再会はその後に行う
この流れを家族全員が理解しておけば、「自分だけ逃げてよいのだろうか」と迷う時間を減らすことができます。
まとめ|津波てんでんこは「互いを信じて各自がすぐ逃げる」ための教え
津波てんでんことは、津波が迫ったときには家族が離れた場所にいても、互いを探したり待ったりせず、それぞれが自分の判断で一刻も早く避難するという教えです。
津波から逃げられる時間は限られています。
「家族を迎えに行ってから」「電話がつながってから」「周りの人が逃げ始めてから」と考えているうちに、避難できる時間を失う可能性があります。
だからこそ、災害が起きてから判断するのではなく、平時から家族で「津波が来たらそれぞれが必ず逃げる」と決め、それぞれの避難場所を確認しておくことが重要です。
家族を待たない。家族も自分を待っていないと信じる。そして自分から率先して逃げる。
その共通認識を家族や地域でつくっておくことが、「津波てんでんこ」を実際の津波避難に生かすための最も大切な備えです。
よくある質問
- Q「津波てんでんこ」とはどういう意味ですか?
- A
津波の危険が迫ったら、家族が別の場所にいても互いを探したり待ったりせず、それぞれが自分の判断で一刻も早く安全な高い場所へ避難するという教えです。「てんでんこ」には「各自」「それぞれ」という意味があります。
- Q津波が来そうなとき、子どもや家族を迎えに行ってはいけないのですか?
- A
家族が別の場所にいる場合、津波の危険が迫る地域へ迎えや安否確認のために戻ることは、自分自身の避難を遅らせる危険があります。学校や保育施設などにいる子どもについては、施設の津波避難・引き渡しルールを平時に確認し、「津波時に危険区域へ迎えに戻ることを前提にしない」よう家族で決めておくことが重要です。一緒にいる幼児や避難に支援が必要な人については、可能な範囲で助け合いながら速やかに避難します。
- Q津波てんでんこを実践するために普段から何をすればよいですか?
- A
家族それぞれが自宅、学校、職場、外出先からどこへ避難するかを確認し、「津波の危険があれば迎えを待たず各自で逃げる」と共有しておきます。さらに避難訓練を繰り返し、自分の判断で率先して避難できるようにしておくことが大切です。
参考資料・出典
- 釜石市「東日本大震災 釜石市教訓集『未来の命を守るために』・証言記録集『伝えたい3.11の記憶』」
- 釜石市「自然災害とともに生きる知恵『命てんでんこ』」
- 岩手県「東日本大震災津波を教訓とした防災・復興に関する提言」
- 総務省消防庁 防災・危機管理e-カレッジ「釜石の奇跡」
- 内閣府「特集 東日本大震災から学ぶ ~いかに生き延びたか~」
- 気象庁「津波から身を守るために」
- 気象庁「津波警報・注意報、津波情報、津波予報について」
- 日本防災士機構『防災士教本』
情報確認日:2026年9月3日

